俺とあかりはいわゆる幼馴染だ。
あかりは、昔からちょっとぼんやり気味で何度もクビにしようかと思ったような
ヤツ。
けど、なんつーかまぁ長年のよしみで思いとどまってる。俺様は心が広いしな。
ばーちゃんにもよく言われた。
「女の子には優しくしてあげな。男は女を守るもんだからね」
相手があかりってのはアレだけど、あいつも女っちゃ女だしばーちゃんの言いつ
けは守ろうと思うからこそ今に至るってワケだ。
Start Line Harry Side
最近あかりは結構イケてんだよな。前よりすっげー可愛くなった。
それは俺様だからこそも確かで、保証する。
何しろ俺たち兄妹みてーに育ったしお互いに色気なんて感じようがねーからどう
でもいいけど、ガッコで噂になってるあたりは結構スゲーんじゃね?あいつ。あ
かりのクセしてよ。
昔の歌にもあった「恋する女は綺麗さ」ってヤツ?
正にそれを地でいってるってワケだ。
そんなあかりなんだけど…っと、噂をすれば本人。
…校門で突っ立ってるってことはアレか。志波待ちってこったろ?
「あ、コウ」
「あかり!テメーその呼び方やめろって何回言やぁわかんだよ!!」
「どうしてもダメなのー?」
「ったりめーだっての!」
隠すことでもねーけど、めんどくせーから俺たちが幼馴染だってコトはガッコで
は誰にも言ってない。
なのにあかりは平気で俺を普段通りに呼ぶあたりがわかってない。
昔っからだ、コイツのこーいうトコ。
「のしん…もダメなんでしょ?」
「おう」
「でもさ、井上くんは呼んでるじゃん」
「井上は付き合い長いダチだかんな。それに言っても素直に聞くタマじゃねーだ
ろ」
「付き合いなら私の方が長いし中学までは呼んでたのに…」
「とにかくマジやめろそれ。でないとお前クビだかんな、今度こそ」
「…わかった。じゃ針谷くん、とか?」
「それもバツ!ざけんなあかり」
「コウ…なんか気難しくなってない?ちょっと前までもっと素直なコだったのに
」
「お前に言われたかねーっての!とにかくダメだダメ!ボツ!」
「じゃあなんて呼べばいいのよー。ずるいよコウは私のこと今まで通り呼ぶのに
」
「…家とかでならコウ…でもいいけどよ…。とにかく!ガッコではボツ!」
不貞腐れた顔して見せても、やっぱり前より可愛くなった…と思う。
ダテに幼馴染はやってねーっての。
「みんなみたくハリー?」
「おう、そうしろ」
「別に…いいけど。でもなんかコウが遠くなった気がしちゃうなぁ…」(めんど
くせーってのもあるけど!)
(お前のためだっつーの!このボケ!)
はっきり言ってやればいいのかしんないけど、何となくためらうのはなんでかな
んて知らねーっつの。ったく…。
あかりがホレてんのは志波だ。
ムカつくことに俺より20センチ近くも背が高く、ついでにガタイの良さといっ
たら中々のモンだ。
高所恐怖症のヘタレだけど、それ以外はまぁいいヤツだと思うしそれはこのハリ
ー様が保証出来る程度にはいい男だ。
面倒見もいいしちょっと口下手なのがアレだけど、クビにする程じゃない。
あかりのことを任せてもいいかもしれないとは思う。
幼馴染の俺よりあかりをよくわかってるヤツなんて今んトコいない。
天然ボケかましまくりのコイツを志波も嫌ってはいない(…と思う)。
だってフツー、好きでもない女と一緒に帰ったり休みに出かけたりしねーだろ?
まして志波はそういうのカタそうだしな、頭。
だからまだ発展途上中のこいつらのためにも、志波が誤解するような要素をなく
そうとしてやってる俺様の気遣いってのがわかってないんだからムカつく。
(…まぁあかりだから仕方ねーっていえばそれまでだけど)
「とにかく、俺様のことはハリー様と呼べ」
「…様は余計だと思う…」
「うっせっつーの!お前のために言ってやってんだから素直に言うこときいとけ
!」
「なんでそれが私のためなのー?」
うっかり口が滑っても、首傾げてるあたりが「らしすぎ」ってヤツ?
そのあたりもまーわかってっけど、項垂れた子犬みてーに見えちまうからさすが
にクビにする気力も失せる。
志波と俺はニガコク仲間だ。
結構気が合うし悪いヤツじゃないのはわかってるけどイマイチ読めない男だ。
表情もちょっと乏しいし喜怒哀楽がわかりづらいと俺でも思う。
でもそういう志波をわかりづらいとは思ってないらしいあかり。
「…海野」
「あ、志波くん!」
そんなバカくさいやりとりをしてた最中、噂の男、志波登場。
(ほれみろ、あの顔)
俺ならわかる、あかりの表情のイミ。
わかってなさそーな志波はじれってーけど、そんなのわざわざ教えてやるほど俺
様はヒマじゃねーって。
「針谷」
「何だよ」
「海野…連れてっていいか?」
「俺様に聞くな!別にあかりは俺のじゃねーし。ていうか志波、お前がそもそも
あかりと待ち合わせしてたんだろーが!」
「ああ、そうだが」
「のし…じゃない、ハリー、またね!」
「おう」
軽く手を上げて2人の背中を見送って、俺はため息をつく。
(パッと見る限り、あいつらとっくに出来上がってるようにしか見えねーのにな
)
泣き虫のくせにヘンに頑固で気の強いあかり。
トロいから時々いじめられちゃ俺んトコに逃げてきて、俺と井上がそいつらをシ
メて…ってのが中学までのお約束だったけどそれももう終わるんだな。
べ、別に寂しくなんてねーけど。
(上手くいけばいーな、あかり)
(泣かすなよ、志波)
何となく、笑った。
寂しいのは確かだけど、これは恋とかそーいうんじゃねーから。
きっとこれから先どんどん俺らは変わってく。
俺と井上はバンドを趣味で終わらせるつもりねーみたいに、あかりもきっと何か
しらコレ!ってモンを見つけて進む。
志波だってそうだろう。
その道筋に、あかり。
志波と並んでられたらいいな。
「らしくねーっつの!ハリー様をセンチにさせるなんてやっぱ侮れねーぞ、あか
り!」
思わず口に出ちまって、バツ悪かった。
「女の子には優しくしてあげな。男は女を守るもんだからね」
ばーちゃんの言葉、お前にも言ってやるかんな志波。
だからさっさとあかりをお前のモンにしちまえ。
俺や井上が守ってきたあかりを、今度は…これからはお前が。
早くそうなれ。じれってーから見てる俺らが。
そんなことを、思ったりした。
そして週末、俺は一歩進みだしたあかりと志波を目撃した。
バス停でジタバタしてる女がいるなと思ったらあかりで。
休日はこの時間、ここらから駅に出るバスは本数が少ない。
だから俺様はチャリで家を出たわけだ。
「あかり!」
「コウ?!」
驚くあかりに向かって、俺は胸張って笑ってやった。
「何焦りまくってんのお前」
「あのね…遅刻しそうなの。バスこの時間少ないし」
「はぁ?寝坊か?」
「…うん。目覚まし止めた覚えはあるんだけどそのまま寝ちゃったみたいで…」
「んで?待ち合わせはどこなんだよ」
「駅」
情けなく俯くあかりに言った。
「ったくしゃーねぇなぁ。ほら、乗れよ後ろ」
「え?」
「俺様が超特急で駅まで送ってやる。さっさと乗れって!志波待たせると寝ちま
うぞ?」
あかりがキョドりまくって言葉にならない言葉でなんで志波くんとだってわかる
のとか言ってないのにとかしどろもどろしてるけど華麗にスルーした俺。
(めかし込んで焦ってりゃデートしかねーだろフツー)
「オラ、さっさとしろ!俺様の気が変わる前に乗らねーと置いてくぞ?」
「ありがと!コウ!」
後ろに乗ったあかりの座り具合を確認しながら、言ってやる。
「行くぞ!しっかり掴まってろ!」
「うん!」
「それじゃ振り落としちまうからいつもみたくちゃんと手ぇ回せ!腰!」
「で、でも」
「いいから!おニューのスカート汚れっぞ?落ちたら」
「…わかった」
あかりと2ケツすんのは結構久々だな、と思いながら俺はペダルを踏み込んだ。
混み合う大通りを避けて裏道を飛ばしながらのハイペース。何時に待ち合わせて
んだか知らねーけど、大丈夫だろ。
背中に感じるピタっとつけてるあかりのほっぺたが熱いのがわかる。
(何一丁前に緊張してんだ、あかりのクセして)
こうしてるとあかりもやっぱ他の女と変わんねーのかなって思う。
最後の坂道は何気に結構キツいけど、立ち漕ぎで頑張って登り切る。
(俺様を必死にさせるなんて100年はえーぞあかりのクセして)
…内心苦笑いしつつ、駅前のロータリーが見渡せば、壁に凭れて立ってる志波の
デカイ姿が見えた。
手前のコンビニに自転車を停めて、あかりを下ろした。
「ほら、志波待ってんぞ」
「ありがとコウ!」
「だーかーら!外ではハリーって呼べっての!」
「…ごめん。でもほんとありがと」
「いいから行け!さっさと告っちまわないとクビにすんぞ!」
「な、何言ってるのコウ!」
マンガみてーにさっと真っ赤になるあかりにヒラヒラと手を振って、俺はチャリ
に跨った。
あかりを送ってたって言えばばーちゃんは怒んねーし、逆に喜んで誉めてくれる
だろうけどあんまり待たせることはしたくねーから急がねーと。
(どっちが誘ったのかわかんねーけど、まぁいい調子なんじゃねーの?)
2人ともあんまトロトロしくさってるようなら、今度ニガコクついでに志波のヤ
ツも焚きつけてやろーと思いついて、ちょっと笑った。
    
"お礼に代えて"
「Favorite one」の小早川様からキリリク3333番踏んで頂きました小説です。
リクエストは「不憫でない志波さん」という……いえいえ、我が家の志波さんが不憫すぎるから小早川様に書いてもらおうだなんてまさかそんな(笑)
「オプションでハリー付けてください」だなんて、牛丼頼んで「大盛りつゆだくで」的なノリでお願いしてしまった私は本当に失礼なヤツです。
でも、心優しい小早川様は、そんな私に「デイジー視点」と「ハリー視点」という豪華すぎるプレゼントを下さったのでした……素敵過ぎます!!
しかも!幼馴染ハリーです!!幼馴染ですよ、おさななじみ!!
ワタクシの大好物設定です。(にやり)
でもってデイジーにときめき入ってる志波さんも素敵!てか甘い!良かったね、志波さん!!
実は、小早川様に頂いた基本設定があるのですが、私の胸の内にだけこっそり仕舞っておくには余りに勿体ない!という事で、ご紹介させて頂きます。これを読んでいただければ更に楽しめるかと。
・ハリー&デイジーは幼馴染(母同士が同級生で今も仲良し)
・天然トロトロなデイジーはややKY気味でからかわれたりいじめられたりして
た
・お助け正義の味方はハリー&井上
・ハリーはただ乱暴者(vs男のみ)。井上は少林寺少年
・aika設定デフォルトでハリーはおばあちゃん子で基本は優しい男子
「ハリーおばあちゃん子説」を見事採用して頂きました、光栄ですっ!!
ちょっぴりのんびり屋のあかりちゃんを見守ってきた幼馴染ハリー(と井上くん)……ぎゃああぁ萌 え る !!
本当に素敵な小説、ありがとうございました!!
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