(………うーん、ちょっと失敗したかも)
空を見上げれば、今日は雲ひとつなく晴れていて気持ちが良い。
誘ったのが今日で、そして場所を森林公園に選んで良かったとは思うのだが、日差しは柔らかくてあったかくて気持ちが良い…、いや、良すぎる。
ベンチに座って、一緒にお弁当を食べて、それから何をするでもなくベンチに座っているのだが、空腹も満たされていよいよ困ったことになってきた。
「…海野?」
「えっ、な、なぁに志波くん!?」
「いや、今日はおとなしいと思ってな」
具合でも悪いのかと心配そうに見る志波に、あかりは全然大丈夫だよ!と慌てて手を振った。
けれど、現実問題は少しも大丈夫なんかじゃない。油断するとまぶたがくっつきそうになる。
眠い。ものすごく。
原因は、色々考えられた。若王子先生から出された課題に意外に手間取ったり、友達の密さんに勧められた深夜番組を観たり、今日のお弁当のために早起きしたり。
彼といるのがつまらないわけはない。むしろ居心地が良くて、だからそれも理由の一つかもしれない。
(だめ、しっかりしなきゃ。…うーん、でも、ちょっとくらいなら……)
「海野」
「…ぅえ!な、なに?どうかした?」
振り返って志波を見れば、彼は何故かおかしそうに口元を歪めている。よくわからないけど、あかりはこうやって志波に笑われる事が多い、と思う。
「お前、眠いんだろ」
「え、ええっ!ち、ちがうよ全然そんなことないよ!」
「嘘つけ。船漕いでたぞ、さっき」
「う、うそっ!」
(は、はずかしい……)
「ご、ごめんね。ちょっと最近夜更かししちゃって……志波くんといるのは、すごく楽しいんだけれど」
「何してたんだ?」
「えっとね、若王子先生の課題でしょ?それから今日お弁当作るのに早めに起きて…」
「そうか。…うまかった、弁当」
「あと……密さんに、おしえてもらったテレビ……」
「テレビ?」
(やっぱり、ダメかも……)
相槌を打ってくれる低音の声が優しくて心地いい。
話したいことはたくさんあって、だから眠ってしまうのは勿体ないしそんなの悪いと思うのだけれど。
でも、もう何だか何を話しているかもわからなくなってきて……。
またもや、眠そうに目を閉じかけるあかりに、志波はつい笑ってしまう。
いつもは眠くなるのは自分の方だから、相手がそうなるのを見るのは新鮮だ。そう言えば、以前にも二人して寝てしまった事があったけれど、あの時はただ寝顔を見るだけで終わった。
……いや別に、何かしようってわけじゃねぇけど。
うとうととするあかりに、志波は「寝てもいいぞ」と言った。まともな返事が返ってくるとも思わなかったが、意外にも「だいじょうぶ」と彼女は言う。けれど、小さな頭は眠気でふらふらと揺れていた。
大丈夫なわけがないだろ、もう目、閉じちまってるのに。
「ほら、肩、貸してやる」
「ん、…んとに、だい、じょうぶ…」
「いいから」
志波にしてみれば、本当に肩を貸してやるつもりだった。大体、こんなにぐらぐらしていたら逆に危ない。
ただ、それだけを思って、こちら側に引き寄せたのだが。
「ん……」
「って、おい…!」
彼女の頭は肩には乗らず、そのまま下に凭れていく。慌てて支えはしたが、止めることはできず、彼女は体を預けた。
自分の、膝の上に。
一瞬どうしようかと迷ったが、膝の上から聞こえる小さな寝息に、そのままにしておこうと動くのをやめた。
今日は本当に日差しが気持ち良くて確かに眠気を誘う天気ではあるが、今はとても眠れそうにない。
こいつが起きた時の反応でも考えていようと、志波は眠っているあかりの髪を撫でる。心地よくて、癖になりそうだ。
きっと、真っ赤になっておたおたするんだろうな。ごめんね、とか、こんなつもりじゃなかった、とか言って。
でも俺は、お前に甘えられるのが嬉しいんだと言ったら、それこそどんな顔をするだろう。
お前にだったら何だってしてやれるって、本当は思っているんだということ。
(……それは、まだ早いか)
膝の上の高めの体温と、やわらかな髪の感触だけで満足することにしよう、と、志波はもう一度あかりの髪を撫でた。
もっと甘えていいから