水底の記憶
 
 
  
『男の子は泣いてはだめ』
  
母は、勝己にそう言った。灰色の曇り空から泣くように雨が降っていた日、母は黒い着物を着ていた。
  
『お父様には、もう会えないけれど』
  
家には、たくさんの花があった。暗い家の中、線香の煙が漂う中で、花の白さは眩しいくらいだったのに、勝己は何故かそれをきれいだとは思えなかった。白い花ばかりの花輪と、黒い服を着た大人たちは気味が悪い。
  
『どんなに辛くても、あなたは泣いてはだめ』
  
そう言った母は、実際、誰の前でも泣かなかった。集まった人たちに向かって、挨拶をし、頭を下げた。泣きもしなければ、笑いもせず。 
その日を境に、母はますます寝込む事が多くなり、とうとう母にも「会えなく」なってしまった。
  
目の前には、海が広がっている。ずっと、見えなくなる向こう側まで。もしかしたら、あの向こう側にお父様もお母様もいるのかもしれないと思った。つまり、自分一人では行き着くことのできないところに。 
そろそろ空の色が青色から薄い橙色に変わりつつある。もう戻らないとと思いつつ、勝己はそこから中々動きだせずにいた。…海野の家が嫌なわけではない。あそこの家の人たちは皆やさしいから好きだ。やさしくて、おおらかで、なのに、何故か時々こうして一人になりたくなった。あの場所はもう自分の中では大切な「家」なのに、どうしても気が進まないのだ。皆で楽しい気分でいればいるほど、どうしようもなく寂しい気持ちになる。これは、誰にもないしょの話だ。そんなことを言えば、きっと海野の父も母も気に掛けるに違いなかった。あの人たちを、困らせたくはない。
  
「かつみー!」
  
甲高い声が名前を呼んで、勝己はそちらに振り返る。あかりだ。同い年の妹。白いワンピースをひらひらと風に揺らしながら、こっちに走ってくる。
  
「こけるぞ、そんな走ったら」
  
この妹のことを、勝己は少し苦手だった。おかしは勝手に食べてしまうし、ふらふらしてどこへ行くかわからないし、夜眠れないといっては遅くに勝己を起こして一緒に寝ようと言ったりする。そうかと思えばにこにこと笑う顔はかわいかったりもする。だから、どうしていいかわからない時があるのだ。そもそも志波の家には自分と同じ年の女の子などいなかった。親戚の子、というのもおらず、そのせいか勝己はあちこちの家から「いらっしゃい」と声をかけられた。土地が、家が、シャッキンが、イサンが、―――そんな言葉の飛び交う合間に。
  
「こんなとこで何してるの?」 
「…海、見てた」
  
ふぅん、と、あかりも海の方に首を向ける。恐らく一度くらいは砂の上で転んだのだろう、あかりの髪には細かな砂がいくつもくっついている。
  
「…あのね、おかあさまが言ってたけど、勝己のおかあさまにはもう会えないってほんとう?」 
「……ほんとうだ」 
「どうして?勝己のおかあさまは、勝己のこと、おいて行っちゃったの?」 
「…そうかもしれない」
  
仕方のないことなの、そうしたくてこうなったわけじゃないわ。だけど、どうしようもないの。 
あの日、勝己にそう言ったのは海野の母だった。…あの時はまだ、「母」ではなかったけれど。いつかの母と同じく、線香の煙のにおいが纏わりついた黒い服を着て。 
『もう会えない』という言葉の意味を、勝己は知っていた。それは、「なくなってしまう」ことだ。母は、母であったものになり、それすら煙になって空に消えて、この世のどこにも――もちろん海の果てまで行ったとしても――いない、ということだ。 
白い、ざりざりとした砂浜の上に立ち、青い海を見て、規則正しく息をしているということ。それだけで自分は既に、手も足も目も耳もきちんとある自分は、もう別の場所に生きている。
  
「かなしい?」
  
あかりは、自分の方をじっと見上げて(彼女は自分より頭一つ小さい)、真面目な顔をしていた。
  
「かなしそう」 
「…そんなことない」 
「うそつき」 
「うそじゃない」
  
泣いてはだめ、という言葉が不意に頭の中に響いた。喉の奥が熱くて痛くなったからだと思う。そういう風になると、必ず思い出すから。 
あかりは、怒ったようにぎゅっと眉を寄せていたが、ふと、握った手を勝己の前に差し出した。
  
「あげる」 
「…何だこれ」 
「これを持っていたらあいたい人にあえるの」
  
ふくふくした手の平の上には、真珠の首飾りがあった。どうしたんだと聞くと、あかりは、もらったと答える。華奢な鎖をそっと持ち上げると、揺れる真珠が柔らかく光った。
  
「これがあれば、いつかきっと勝己は勝己のおかあさまに会えるよ」
 
 
 
 
  
同い年の、血のつながらない妹は、そう言って無邪気に笑ったのだった。
 
 
 
 
 
  
本当は、いけないことだとわかっていた。 
だけど、それを持っていたら自分も人魚姫に会えるような気がしていた。おばあさまとおじいさまのように。
  
「…きれいだなぁ」
  
瑛は、家から持ち出したものをそっと手の上に乗せてみる。銀色の鎖にかかっている、とろりと輝く真珠。 
それが祖母の大切なものであるのは知っていたし、家じゅうで「たいせつなもの」とされているのも知っていた。だけど、大丈夫だ。ちゃんと元のところに戻しておけば怒られるはずはない。
  
「きょうは、何しようかなぁ…」
  
ぶらぶらと砂浜を歩きながら空や海を見る。海に入ってもいいけれど、今日はこれを持っているから止しておこう。時間はまだたっぷりある。夕方まで遊んでいてもいいってお母さまは仰っていたし。
  
「…あれ?」
  
遠くから、誰かが歩いてくるのが見えた。人が来る事は時々ある。だけど、驚いたのは今まで見たことのない女の子だったからだ。白いワンピースに白いサンダル。自分と同じくらいの年の女の子。 
何となく、瑛もその子に近付いてみる。その子は泣いていた。泣いていたけれど、ぽつぽつと歩くのを止めなかった。
  
「どうしたの?」 
「…っく、ふぇ…」 
「ねぇ、泣かないで?」
  
そう言って触れたほっぺたが、今まで触ったことのない柔らかさで、瑛は驚いて手を引っ込めた。それから、もう一度おずおずと手を伸ばす。そうっと涙を拭ってあげると、ほっぺたはつきたてのお餅みたいにやわらかくてすべすべしていた。 
女の子は瑛よりは小さい。たぶん、僕よりもちっちゃい子だろうなと考える。だって、こんな泣きながら歩いたりするのだもの。きっと僕より「こども」なんだ。
  
「どこから来たの?もしかして迷子なの?」
  
そう聞くと、女の子はやっと泣き止んで瑛の方を見上げた。涙に濡れた大きな目があんまりじっと見つめてくるから、何だかどきどきしてしまう。
  
「…あっち」
  
女の子は背中の方へ指を差す。頼りなく細い髪が、数本ほっぺたに張り付いたままだ。
  
「まいごじゃないわ」 
「じゃあ、どうして泣いていたの?」 
「さびしくなっちゃったの」
  
だって、ひとりで歩いていたから。彼女はそう説明した。
  
「そっか」
  
確かに、ひとりは寂しい。瑛だって、夜一人で眠る前、あの瞬間はまだほんの少しさびしくて、泣きたくなる時もあるから。(格好悪いから、誰にも内緒だけど)
  
「ねぇ、それなぁに?」 
「え?」
  
女の子は「あれ」を指差して言った。広げて見せてやると、きれい!と彼女は声を上げた。
  
「こんなきれいなの、はじめてみた」 
「これはね、にんぎょひめにあげるものなんだよ」 
「にんぎょひめ?」 
「僕が見つけたらね、あげてもいいよっておばあさまが言ってた」
  
あなたにも、いつか現れるわ。祖母はそう言っていた。そして、それはきっとこの時だと瑛は思った。なぜとか、どうしてとか、そんなのはわからない。わからないけれど、とにかくこの子なんだとただそう思えるのだ。
  
「じゃあ、これはにんぎょひめがつけるのね」
  
女の子は笑う。それってすてきね、きっととってもきれい。そう言って。
  
(きっときみが、ぼくのにんぎょひめだよ)
  
そう言いたかったのに、瑛はどうしてもそれが言えなかった。言おうとすると急に胸がどきどきしてきて邪魔をするのだ。それに、言ってしまったらこの子はどこか消えてしまうかもしれない、物語の中の人魚姫みたいに。
  
「これ、あげるよ」
  
祖母の首飾りを、瑛はその女の子の手の平に落とした。彼女の白い、小さな手の上で光る真珠は、その場所が当然であるかのように輝いていると、瑛には見える。 
だから、これでいいのだ。
  
「それを、持っていて。そうしたらきっと見つけられるから」
  
大人になったら、探しに行く。そして、それからはずうっと一緒にいるんだ、かつて人魚と若者だった祖母と祖父のように、仲良く、ずうっと。
 
 
 
 
  
「きみを、むかえにいくよ。ぜったい」
 
 
 
 
  
告別
 
 
  
あの日、赤城一雪と船に乗り込む直前で引き返し家に帰ってきたあかりは、それから熱を出して寝込んでしまった。寝台の傍には、医者が置いて帰った熱冷ましの薬が置いてある。熱の原因は、過度の疲労と緊張のせいだと言われた。
  
夜、勝己は眠るあかりの傍らであの時の事を思い出す。小雨の降る早朝、勝己ももちろんあの場に向かい一部始終を見守っていたわけだが、あかりを散々振り回したはずの赤城一雪に対しては何故か怒りを持つことはなかった。…あかりよりも、むしろ彼の方こそ傷付いていたかもしれない。あかりは結局、赤城一雪でなく、佐伯瑛を選んだのだから。
  
(…あいつは、俺だった)
  
あれは自分だった。何もかも捨てて、新しい場所へ彼女を連れていけたらと願う自分。だが結局、それは出来なかった自分。 
ここに在るものを、捨てきることが出来なかった。捨てるには、余りにもやさしく、おおらかで、かけがえのないものばかりだから。…ただの想像だが、彼も同じだったのではないかと思う。 
赤城一雪はあれからどうしているのだろう。その日のうちに彼以外の赤城家の人間が揃って謝りに来てから、音沙汰は無い。それ以外には一度彼の名前で花が送られてきて、それきりだ。 
 
勝己は、そっと自分の手を開く。そこに光る真珠。銀色の鎖に繋げられて首飾りになっているもの。
  
花見の時、佐伯の別邸であの絵を見た時は心臓が止まるかと思った。自分が幼い頃、あかりに渡された宝物が、絵の中に描かれていたのだから。真珠の台に少し特殊な模様が施されているので間違いない。幼い頃は出どころなど気にも留めなかったが、あかりは、幼い佐伯瑛から渡されたのだとその時思い立った。
  
――結局、どこへやったのかあの子は口を割らなくてね、家族の誰にも。子供なりに、何か、特別な想いがあったのでしょうなぁ。
  
とくべつな。
  
彼の祖父が話してくれたのを聞いた時、胸が苦しくなった。運命すら、あの二人を祝福しているような気がした。佐伯瑛と、あかりの出会いは偶然ではなかったのだと。
 
だから、今まで言いだす事が出来なかった。彼らが(恐らく)忘れていることを自分が知っているというのは優越すらも感じたし、そうして黙っていれば、あの二人は想いが通じ合うこともないのではないかと、馬鹿な事も考えた。
  
だが、そんな事に何の意味があるだろう。結局、自分は何も起こさなかった。赤城一雪のように、あかりを連れ出そうともしなかった。そして、あかりは誰でもない、佐伯の元へ走って戻った。 
それが、答えじゃないのか。あかりの事は好きだ。大切だし、ずっと笑っていてほしいと思う。誰より、幸せになるのを願っている。 
でも、それだけだ。
  
「ん…」 
「目、醒めたか」
  
小さい頃、彼女のくれたこの真珠の首飾りは宝物だった。何より、それをくれた彼女自身が自分にとって一番大切な宝物だった。
  
「…いてくれたの?」 
「あぁ。具合、どうだ」
  
あかりの額に手をやると、彼女はそっと目を閉じた。子供の時から変わらない癖。 
俺は、今までのあかりを誰より知ってる。…だから、もうそれで充分じゃないか。
  
「少し、起きられるか?」 
「うん。…どうしたの」 
「…お前に、返したいものがある」
  
でも、その前に、と勝己はあかりの腕をほんの少し引っ張った。…彼女が自分の方へ寄り添うように。
  
「かつ、み…?」
  
今、腕の中にある温もりを忘れずにいよう、と思う。ずっとずっと自分を支えてくれていた体温、ずっとずっと守りたいと思っていたもの。 
でも、もうお姫様は王子様の所へ行かなくちゃいけない。その時が、来た。
  
「…これ」 
「…首飾り?こんなの、勝己がどうして持ってるの…?」 
「お前が、ずっと昔に俺にくれたんだ。これを持っていたら会いたい人に会えるって」 
「わたしが…」 
「だけど、俺にはもう必要ない。だから、お前に返す」
  
華奢な首に、勝己はそれを付けてやった。光の少ない夜でも、その真珠は淡く光を放っている。
  
「…今までありがとう。今度は、お前が会いたい人に、会いに行く番だ」 
「……勝己」 
「俺はもう、なくても大丈夫だから」
  
(さようなら、俺の、おひめさま)
 
 
 
 
  
心の中でだけ、そう呟いた。
 
 
 
 
  
佐伯瑛
 
 
  
幼い頃、人魚姫に会ったのだと思っていた。 
ほんの少し話をしただけで、名前も知らない。それでも、ずっと憶えていて、夢に見て、忘れずにいた。 
もう一度会えれば。ただそれだけを願って、熱病にでもかかったみたいに、そればかり思って。
  
(…現金なもんだ)
  
あれだけ繰り返し見ていた夢を、瑛はすっかり見なくなっていた。忘れてしまう事を、恐れてすらいたあの時の光景を。 
代わりに思い出すのは、人魚姫だなんて空想上のお姫様ではなく、或いは幼いころに出会った小さな女の子でもなく。
  
――佐伯さん。
  
ふと思い浮かべて、けれども瑛は首を振ってその姿を頭から追い出そうとする。笑顔や、泣き顔や、頬を膨らませた顔や、覗きこむようにして見てくる顔を、端からどんどん。けれど忘れようとも、いくらでも思い出してしまう。たぶん、自分の意識とは別の所でわかっているのだ、彼女の姿を自分の中から追い出すだなんて無理だということを。 
 
瑛は、あれから両親ともう一度話をした。どんなに突っぱねたところで、やはり認めてもらえないのは苦しいことだったからだ。認めてもらう、とまではいかなくとも、少なくとも理解してほしかった。時間を下さい、と頭を下げた。何もしないうちから終わりたくないと。 
大学へは必死で勉強したお陰で学費免除で入学出来る事になり、働きながら、けれども大学へも真面目に通うことを条件に話がついた。…概ねわかってもらえたと思う。
  
「後は…」
  
きちんとしなさい、と、母に言われた。家や、世間体のことはともかくとして(そんな言葉を、母が使うとは驚いたけれど)、貴方の気持ちの上でどうしたいのか、きちんとしなさい。今の貴方には、それだけ言えば充分でしょう?
  
「…わかってるよ」 
「何がわかってるの?」
  
呟いた独りごとに返事が返ってきて、瑛は思わず声の方へ振り向いた。そして、しばらく何も言えなくなってしまった。
  
「突然ごめんなさい。でも、ここに行けば会えると伺って」
  
走ってきたのか、頬が少し赤く上気している。彼女――海野あかりは、瑛に向かってにっこりと笑った。
  
「お、まえ、どうして…」 
「相変わらず広いお庭。また迷いそうになっちゃった」
  
驚く瑛をよそに、あかりは気にする風でもなく、植えられた木を見上げる。おおきく、張り出すように枝が伸びた木。
  
「…憶えてる?私、ここに初めて来た時、この木に登ったの。猫を助けようとして。それから、佐伯さんの上に落っこちたね」 
「あぁ…、そんな事もあったな」 
「一緒に舞踏会も行ったことも、雨の日に偶然会ったことも、お花見も、一緒に海に行ったことも…全部憶えてるのに、…ひとつ、忘れていたみたい」
  
これ、と、あかりは大切そうにそっと手の平を瑛に向かって開く。
  
「…お前、これ」 
「返しにきたの」 
「…え?」
  
あかりの手の中にある首飾りは間違いなく瑛の祖母の物であり、そして自分があの日こっそり持ち出した物だった。持ち出して、そして、また会う約束をした女の子に、あげた物。 
それを、あかりが持っている。
  
「ずっと、この首飾りが佐伯さんと私を繋げてくれていたのに…。その事を、すっかり忘れちゃってた」
  
あかりの、細い、華奢な指先がそっと真珠に触れた。
  
「大切な…思い出だったのに」
  
風が少し吹いて、葉が揺れる音が聞こえる。いつかの波の音みたいだと思った。初めて会った時か、再会してからか、それはわからないけれども。
  
「…でも、これは大切な思い出で、もしかしたら、このお陰で私はここに来たのかもしれないけれど。…でも、無くても、会いに来た」
  
瑛はあかりから目が離せなかった。目の前にいる彼女は、あの日の女の子であると同時に全く別人のようにも思える。あの頃みたいな迷子ではなく、ちゃんと、意志を持ってここにいる女の子。 
揺るがずにまっすぐこちらを見ていた瞳が初めて揺れた。彼女は泣き笑いのような顔でほんの少し首を傾げる。
  
「…私、佐伯さんの傍に、いたいんです。佐伯さんが困るなら、待ちます。…だって、他の人では、やっぱり駄目なんだもの」
  
緩く止まない風が、あかりの頬に髪を貼り付かせていた。彼女はぼろぼろと子供みたいに泣きながらごめんなさい、と言う。困らせてごめんなさい、でも、もう決めてしまったの。佐伯さんが嫌でも迷惑でも、あなたと一緒にいたいって、決めてしまった。
  
「…泣くなよ」
  
あの時も、あんまりにも柔らかくて驚いたっけ。少し力を入れたら壊れそうだ。…今も。
  
「バカだな」
  
笑ってやったはずなのに、何故か声が震えた。胸がいっぱいで、泣きたいんだか笑いたいんだかわからない。 
本当に幸せな瞬間というのは、笑いたいのよりも泣きたいのかもしれない。でなければ、今、この瞬間の気持ちに説明がつかない。
  
「…迎えにいくって言ったのに、人魚姫の方から会いに来るなんて、聞いた事ないぞ」 
「だ、だって…」 
「…あぁ、そんなの、どっちだっていいや」
  
出会えたのだから、もうそんなことはどうでもいい。これからは、もう絶対離さない。
 
 
 
 
  
耳の端に、葉摺れの音が聞こえてくる。それを聞いて、海に行きたい、と瑛は思った。 
あと少し経ったら言ってみよう。もう一度、二人で一緒に海に。
 
 
 
 
 
 
 
  
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
  
僕の海の名前
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
  
  
(C)Abundant Shine、photo by Abundant Shine
  |    |