キミが最強☆





「…おい、もういい加減に…」
「やだ!もう一回っ!」

そうやって駄々をこねるような声ですら、彼女が言うと何故微笑ましい気持ちになるのだろう。
店内に鳴り響く音楽や、ゲームの作動音で耳鳴りがしそうな空間でも、みゆきの声は正しく志波の耳に伝わる。彼女は相変わらずゲーム画面の方を向いたままだ。

「だって、私、一回も勝ててないんだもん。一回くらいはリベンジしなきゃ帰れない」

彼女が言うのは対戦ゲームの事だ。さっきから結構な回数を二人で対戦しているが、どういうわけかみゆきは志波に勝てないのだった。
本当に、たまたまだ。志波だってゲームの腕に自信があるわけではない。だが、どうあっても勝ってしまうのだから仕方がない。むしろ負けてやりたいと思うのだが、どうやれば負けてやれるのかもわからない。

(いや、それは違うか)

手は抜けない。例えただのゲームでも、勝負事で手を抜くのは違う気がする。何より、真剣なみゆきに悪い。

(…それにしても)

きゅっと寄せられた眉、膨らんだほっぺた。決して機嫌が良い顔ではないのに可愛くて、こっちの頬はつい緩みそうになる。

「…ん?志波、何で笑ってるの?」
「…いや、何でもない」
「もーっ!真面目にやってよ!こっちは真剣なんだからねっ!」
「あぁ。…くく」
「…何よ、勝ってるからって余裕ぶっちゃって!」

ふいっとそっぽを向いたみゆきは、マシンに小銭を投入していく。こうなったら、何が何でも一勝するまでは帰らないつもりらしい。

「お前、何をそんなにこだわってるんだ?」

新しく切り替わるゲーム画面を眺めつつ、志波はコントローラーを握る。彼女が性格上、こういう事に真剣になるのは知っていたが、それにしても、この妙な気合いの入り方。

「…志波ってさ、ゲーム得意?」
「…いいや。得意じゃねぇ」

そもそも得意不得意と言うほどもした事がない。ゲームをするよりは外に出てボールを追いかけ、バットを振っている事のほうが断然多いのだから。
答えると、みゆきは弾かれたように「でしょ!」と、くるんとこっちを振り返る。ふわりと香る、彼女の匂い。

「私、こう見えても結構得意なんだよ?だから今日だって余裕で私が勝って終わると思ってたのに、全然勝てなくて…そういのって悔しいじゃない?」
「あぁ。…おい、よそ見してると」
「え?…わっ、わ、うわぁ待って待って!あー!」
「…また俺の勝ちだな」
「ひどーい!今のはヒキョウだよ!誘導尋問だっ!」
「…お前から話しかけたんじゃねぇか」

そんなんどっちでもいいよ、もう!と、彼女はぷりぷりしながら、また小銭を入れる。

「この私が…、志波に負けっぱなしなんて、絶対おかしい!ありえない!」
「あのな…」
「勝つまで帰らないんだからねっ」

(勝つまで、か)

適当にコントローラーを操作しながら(手を抜いているのではない。操作方法がよくわからないせいだ)、志波は隣で真剣にゲームをしているみゆきを見る。
どちらが「勝っている」かといえば、それは絶対にみゆきの方だ。自分より小さい存在なのに、全然敵う気がしない。

もしも俺が「勝てる」まで粘ったら、どうなるだろう。

「…お?何か、これは、もしかして勝てるんじゃない?」
「…みゆき」
「へ?な―――」



その瞬間、画面には華々しい音と共にゲームオーバーの文字が表示された。



「………」
「…すまん、俺が悪かった」

結局、最後までみゆきが勝つ事はなく終わった。最後の最後、彼女は自爆してしまったのだ。
お陰で彼女の機嫌は悪い。むっつりと黙りこんだまま志波の数歩前を歩いている。…耳まで真っ赤にして。

「なぁ…」
「…何でああいう事になっちゃうんですか?志波クン?」
「何で?……何となく?」
「な!何となくって、何よそれー!」
「気付いたら、動いてた」
「き、きづいたらって…!あ、あ、あれは反則でしょ!周りは誰も気付いてないからよかったけど…っ」
「だから、悪かったって言ってる」

(確かに、どうかしてたな)

自分でも、どういうつもりで「ああいう事」をしてしまったのか、よくわからない。普段から思慮深いとは言えないが、それにしてもみゆきが関わると、自分でも驚くような行動をしてしまう。
彼女の事となると、色々な事が制御出来なくなる。…もちろん、志波としては最大限気を付けているつもりなのだが。
ああいう行動は、自分はともかく彼女を傷付きかねないという事くらい、馬鹿な自分でもわかっているのに。

「…本当に、ごめんな」

何度目かの「ごめん」を言った後、少し前を歩いていたみゆきがぴたりと止まる。それから、目を細くして志波を眺めた。

「…反省してる?」
「ああ、してる」
「本当?」
「本当だ」
「じゃあ、許してあげる」

みゆきは笑顔で言って、それから、ちょいちょいと小さく手招きをした。

「?…何だ?」
「いーからいーから」

手招きされるがまま、みゆきに近付く。もう少しで、彼女の体に触れる。それくらいまで傍に寄った、その時。

「隙あり!」
「…っ!?」

思い切り腕を下に引っ張られ、それでも、持ち前の反射神経で何とか転ぶのだけは踏み止まる。…いや、そんな事よりも。
そんな事よりも、今、頬に何か押し付けられた。柔らかい感触が。

「お、お前、今…」
「お返しだよー、っだ!」

顔がまだ赤いまま、それでも彼女は小さな子供みたいに舌を出してから、照れたように笑った。

「とりあえず、これで引き分けね。…あ!ゲームの勝負は別だけど!」
「…何だよ、それ」

言いながら、志波も笑う。やっぱり、彼女には中々勝てそうにない。
道のりは、まだまだ遠そうだ。





「…けど、今のは引き分けじゃねぇだろ?」
「え?なんで?」
「場所が違う」
「いっ…いいでしょ、別に!」
「やり直してもいいんだぞ?」
「誰がするかー!志波のばか!えっち!」












Thanks!! 50000Hit&2nd Anniversary!!






Say-coさまからリクエスト、「志波とみゆきちゃんでデート話」対決デート、という事でゲームセンターで対戦してもらいました。
みゆきちゃんとは、Say-coさんのサイトのデイジーちゃんの名前です。個人的には、元気いっぱいのスポーツ少女!…でありながら天然なところもあって志波くんが大好き!な乙女な女の子、というイメージがありましたので、そういう感じを…詰め込んでみたのですけども。
よそ様のデイジーを書く機会というのは中々なくて、今回個人的には楽しみにしていたのですが、いざ書こうとすると難しいったら…!何せご本家のみゆきちゃんが本当にかわいくてですね…!私が書くとツンデレなんだか偉そうなんだかわからん感じになってしまいました…すみません…!本物のみゆきちゃんはもっとかわいい!
けれど、ウチの志波デイジーはうじうじ鈍くさいので、みゆきちゃんみたいなサバサバした元気っ子ちゃんを書けるのは楽しかったです。Say-coさん、貴重な機会をありがとうございました!

でもって、志波が何をやらかしたかはご想像にお任せします。ホント、何やってんのお前は…(笑)

こんなお話ですが、Say-coさまに。
リクエストありがとうございました!