むかしむかし、あるところに、シンデレラという心優しい女の子がいました。女の子は幸せに暮らしていましたが、あの大怪獣「マクラノギヌス」を召喚出来るヒネクレ継父(?)サエキが、ツンデレの連れ子ハリーを連れて家に来てからというもの生活は一変してしまいました。
サエキは突然やってきて家を改築し、喫茶店にしてしまい、シンデレラにそれを手伝わせました。喫茶店のウエイトレスなどしたことがなかったシンデレラは勝手がわからず失敗ばかりです。そんなシンデレラに、サエキは「このカピバラが!」と暴言を吐いてチョップをします。更には嫌がるシンデレラに、無理やり水着エプロンを着せて手伝わせたりしました。ひどい仕打ちです。
ハリーの方は、とにかく偉そうで、「オレサマは将来スーパースターになるんだぜ!敬ってへつらいやがれ!」とシンデレラに向っていつも自慢してきます。しかも掃除の仕方なんかにやたらとうるさく、自分はやらないくせに下手するとサエキよりごちゃごちゃ言ってきます。実はハリーは人前に出るとめちゃくちゃ緊張することをシンデレラは知っていますが、彼はガラスのハートの持ち主なのでシンデレラは黙ってあげていました。
かわいそうに、シンデレラは屋根裏部屋に追いやられてしまいましたが、それでもシンデレラは前向きでした。サエキとハリーにもいつもにこにこと笑いかけ、言われた仕事も一生懸命にがんばりました。そんなシンデレラの唯一の楽しみは、狭い部屋の小さな窓から見える遠くのお城を見る事でした。あんなステキなところに一度行ってみたいと、いつも夢を見ていました。
そんなある日、お城からダンスパーティーの知らせが届きます。何でもお城の王子様がお嫁さんを探しているのだそうです。街中の娘はみんな参加してもよいというお達しでした。シンデレラは喜んで、サエキとハリーに今夜だけお城に行かせてもらえるようお願いしました。
「ねぇ、サエキくん。お城に行ってきてもいい?」
「ダメに決まってんだろ。今日は出張営業で稼がなきゃいけないってのに、お前みたいなのでもいなきゃ困るんだ」
「えー、でも…」
「大体な、あれは王子様と結婚する人を探すためのパーティだろ?お前みたいなカピバラ娘、相手にされるわけない」
「そうだぜー、ムダムダ!サエキの言うとおり大人しくしてな。それともお前、オウジサマと結婚したいのかよ?」
「そうじゃないけど…一度あのお城に行ってみたいの。ねぇお願い、二人とも」
「ダメったらダメだ。そんなトコロに行って、変なオトコに引っ掛かったりでもしたら…」
「そうだぜ!大体、コイツだけでもウゼぇのにこれ以上ややこしいのが増えてたまるかよ」
「…………その台詞、そっくり返すぜこの緊張しぃが」
「…………やるか?友達いねぇお父さんキャラめ」
「二人とも、どうして睨みあってるの?」
二人にお城行きを反対された上、たくさんの仕事を押し付けられたシンデレラは泣く泣くダンスパーティを諦めました。全部の仕事を終えてくたくたになって屋根裏部屋に戻ると、窓からは煌びやかなお城が月明かりに照らされてきらきらと浮かび上がるように見えました。
ベッドに座り込むシンデレラの膝の上に、黒いネズミが一匹駆け上ってきます。このネズミはシンデレラの唯一の友達でした。
「ねぇネズミさん。お城のほうはとても楽しそうよ。私も行きたかったけれど…今からじゃ、とても間に合わないわ…ドレスだって無いし」
いつもは元気なシンデレラもさすがに落ち込んでいて、ネズミは心配そうにシンデレラに寄り添います。ネズミはいつもこっそりチーズや甘い生クリームをくれるシンデレラが大好きでした。
「一度だけでもいいから、あのお城に行ってみたいな…少し覗いて見るだけでもいいから」
「その願い。叶えまっせーーーー!!て、うきゃああーーー!!」
その時、突然、声とともに女の子が降ってきました。シンデレラは驚いて彼女を助け起こしました。
「あたたた…、登場シーン失敗してもうた……しょぼん」
「あ、あの、大丈夫ですか?ケガはないですか?」
「あ、おおきに、ダイジョーブ!うち、ジョーブやからね!それよりも!心優しいシンデレラ、泣かんといて!アンタの願いは、このラブリーでキュートなマジカルアイドル☆の、はるひちゃんが叶えたる!!」
「きゅーてぃ…?ね、願いを叶えるってそんなこと、どうして…?」
「いや実はな、『日頃の行いが良い人優先キャンペーン』中やからね。アンタ、ラッキーやわぁ。いやー今の時期は予約込むし大変なんやけど、アンタは日頃の行いもバッチリやから優先させてもらったっちゅうわけ。」
「キャンペーン?」
「いやぶっちゃけココ来るんは2件目やったんやけどね、ホンマは。アタシが意見通してアンタを先に回してもらったんよ。ハケンやからって黙ってハイハイ言ってると思ったら大間違いやからね」
「はぁ……」
マジカルアイドルにも色々あるようです。彼女は「さてと!」と立ち上がりシンデレラに向き直りました。
「あかんあかん、今の話、内緒にしといて〜。というわけで、シンデレラ!願いを言うてくれる?はるひさんがマルっと叶えたるさかい」
「…あ、じゃあ、あの、お城に行きたいんです。今日あるダンスパーティーに一度でいいから行ってみたくて…」
「お城!?ダンスパーティ!?ええなー青春やなー!そこでお目当ての王子様をゲッツ!!てわけやなー」
「え?いえ別にそんな」
「よっしゃ!任せといてー!この合コンクィーンのはるひさんが、どんなオトコもイチコロな感じにしてお城へ送ったる!」
合コンが何なのかシンデレラにはわかりませんでしたが、とにかくマジカルアイドルはるひさんがステッキを一振りすると、シンデレラの粗末な服はかわいいドレスに早変わり。そして、傍にいたネズミをステッキで軽くつつくと、なんとネズミは褐色の肌をした長身の男の人に姿を変えました。
「ね、ネズミさん男の子だったのね…知らなかった」
「プリンセスには従者の一人くらいおらんとカッコつかへんもんなー。裏庭に馬車を用意してるからそれで行きやー!」
「こんなの、夢みたい…!ありがとうマジカルアイドルはるひさん!私、行ってきます!」
「ちょーーーーーっと待ったぁーーーー!!」
そこへ怒鳴り込んできたのは、あの偉そうなハリーでした。彼はどうやら話を盗み聞きしていたようです。
「なんかコソコソやってると思ったら!誰が行かせるかよ!」
「は、ハリー!お願い、見逃してよ!」
「ぜってぇダメだ!お城なんか行ったらお前…他の男に…ってぇ!じゃなくて!とにかく!ダメったらダメだ!」
部屋の出入り口を塞いでしまったハリーに、シンデレラは何もできません。と、そこへ男の姿をしたネズミが、ひょいとシンデレラを抱えあげ、そのまま窓から身を乗り出しました。
「ね、ネズミさん!?ちょ、ちょっと待って!」
「時間が無ぇ、俺に任せておけ」
ネズミはそう言って笑い、そのまま窓から飛び出しました。何やかんやでひらりと着地し、馬車に乗り込みます。
「ちょ、おい!何だアイツ!!くっそ、オレらも追いかけないと!」
「あーーー!!言い忘れとったけど!魔法は12時までやからね!それを過ぎたら元に戻るの、忘れんといてよー!」
辿り着いたお城は本当に夢のように美しいところでした。そして、はるひさんチョイスのキューティドレスを身に纏ったシンデレラは、サエキやハリーの心配通り、そこにいるたくさんの男の人の目を奪いました。
「うわ〜めーっちゃかわいいオンナノコおる〜、モデルになってくれへんかな〜」
「君、かわいいね。良かったらコンサート、一緒に行かない?」
「き、君はなんて美しい人だ!出来れば、こ、交換日記から始めないか!?」
「ふぅん、まぁ結構かわいいよね〜、おとぼけさんっぽいけど、遊んであげてもいいよ?」
などなど、お誘いの声は星の数でしたが、人間の姿のネズミが睨みをきかせて傍に控えていたため、シンデレラにそれ以上近づく男はいませんでした。シンデレラはお城に来れた事が嬉しくて、にこにこしながら出されている料理を食べたり、くるくる踊る人たちを眺めたりと楽しんでいました。今日はなんて素敵な日なんだろう!とシンデレラは幸せでした。
少し疲れてバルコニーに出ると、一人の立派な服を着た男の人が立っています。シンデレラが「こんばんは」と声をかけると、彼は何故かおどおどしながらシンデレラの方を見ました。よく見れば、彼はさっき王様が皆に紹介した王子様です。
「あなたも、疲れちゃったの?」
「お、オレは別に…慣れてっから」
「中に行かないの?とっても楽しいのに」
そう言うと、王子様は何故か悲しげに目を伏せました。
「オレなんかが行っても…みんなに、迷惑かける。行かねぇ方が、いいんだ」
「そんな事ないよ!迷惑なんて思うわけない」
「でも…オレ、王子のくせに何か田舎くせぇし、ヒキコモリだし…そう言われてるの、知ってんだ」
「全然そんな事ないよ!私は、迷惑だなんてちっとも思わないし、だから大丈夫!」
そう言ってシンデレラがにっこり笑うと、彼は少しだけ目を見開いてシンデレラを見ました。初めてシンデレラの方をきちんと見たのです。
シンデレラの瞳は澄んでいて、とても綺麗でした。彼は、それを見てきれいな海を思い出しました。
「君は…どこから来たの?オレを、歓迎してくれた人、初めてだ」
「え…?えっと、私は……」
「はい!そこまで!!」
シンデレラの言葉を遮るように二人の前に現れたのは、継父サエキと連れ子のハリーです。二人はシンデレラが心配で心配で、とうとうお城まで乗り込んできたのです。
「さ、サエキくん!それにハリーも!」
「まったく、来てみりゃやっぱり案の定だ。すぐに来て良かった」
「お前はな、俺と一緒にいりゃいいんだよ。俺は世界のハリー様になるんだからな!」
「ちょっと待て、何でお前となんだよ。シンデレラは俺といるんだ!『珊瑚礁』一緒にやるんだからな!」
「うーるーせー!お前は一人で喫茶店でコーヒー淹れてろ!このヒネクレお父さん!リズムオンチ!」
「お父さん言うな!それは関係ないだろ!?お前こそ、お化けが怖いのに世界のハリーなんてなれるのかよ?」
「そ、そんなのもうとっくに克服したもんね!俺は日々ニガコクで修行して…」
「あ、お前の肩の上に何か白いものが」
「ばばばバカ!!だ、騙されねーからな、そんなジョーダン!!…じょ、ジョーダンって言えよ!!」
そんなサエキとハリーの横から、出されたケーキを食べまくっていたネズミもシンデレラの元に歩み寄りました。そして彼女の手を取り、じっと目を見つめます。
「シンデレラ。俺は魔法がかかっている間しか話せないから、今言っちまうけど……好きだ、お前が」
「ね、ネズミさん…?」
「ぎゃあああ!おいっ、何だよさっきからあのでっかい男は!ドサマギで告ってんじゃねぇよ!」
「つうか、アレ、ネズミか?ネズミって柄じゃないだろ、どう見ても」
「俺は…お前のかわいい笑顔も、声も、食べ物を分けてくれる優しさも、全部好きだ。更に言うなら、すべすべしたやわらかな手も、膝も、む」
「くぉらーーーーー!!それ以上言うな!!ちったぁ自重しろ、このムッツリネズミ!!!!」
「…何だ?お前も考えた事がないとは言わせねぇ。俺は知ってるぞ、この間も部屋で」
「やーーーめーーーろーーーー!!だから言うな!!ていうか、俺は何もしてねぇよ!!何か変な風に言うな!!」
「針谷……お前」
「ハリー何してたの?どうして慌ててるの?」
「な、何だよ、その目は!!そんなん言うんだったらなぁ、サエキ!お前だって」
「黙れ」
「ああ、そうだな。お前も確か」
「だ・ま・れ!」
何の話でケンカをしているか、シンデレラにはさっぱりわかりませんでしたが、とにかく3人(正確には二人と一匹)を止めなくてはなりません。
間に入ろうとしたその時、はるひさんの魔法のドレスがきらきらと光り始めました。驚いて時計を見ると、もう12時は間近です。
「ど、どうしよう、魔法が解けちゃう…!!」
魔法が解ければドレスは元の粗末な服になり、ネズミさんも元の姿に戻ってしまいます。けれども3人(正確には以下略)のケンカも止めなくてはなりません。
シンデレラがおたおたしている間に、時計の針は12時を指しました。
そして、辺りは真っ白な光に包まれたのです―――――――。
「………ちょっとあかりー?起きてやー、もう皆帰るで?」
「…ん?まじかるあいどる?」
「はぁ?アンタ何言うてんの?ほら!竜子姐も密もお待ちかね!アンタ、自分の出番以外はずっと寝てるんやから!皆笑ってたで?」
「え?そ、そんなぁ!はるひちゃん、起こしてよ!」
「だぁって志波やんも密も起こさんでいいって言うから…」
「もぅ、恥ずかしいなぁ……文化祭、終わっちゃったね」
「まだまだ!こっからは打ち上げやで!皆で新しく出来たケーキ屋行こうって約束やったやろ?チョビは生徒会の反省会で遅れるって言うてたけど」
「………ふぁ。なんか私、変な夢見てたみたい」
「もーしっかりしぃや!ほら!ぼさっとしてたら置いてくで!」
「わわっ、ちょ、ちょっと待ってよ〜!!」
…………まだ王子様には出会えてないけど、シンデレラはたくさんのお友達に囲まれて幸せなのでした。
おしまい!!