have Love handles ?





「例えば今日のような日曜日の午後。お互いの誕生日だとかそういう特別な記念日でない何でもない一日が赤城は好きだ。
一緒に食べる遅めの昼食とか、彼女のお気に入りの音楽とか、インスタントでも割と美味しいコーヒーとか。そういうものにいちいち幸せを感じる日々が来るなんて、少し前の自分にはまるで想像もつかなかった。
何でもない日。ただ、彼女と一緒にいられる時間。

彼女を見ていると飽きることはない。いつも会うたび何かしら新しく発見し、そしてやっぱりかわいいなとか、好きだなとか、そういう想いに繋がっていく。正しく「バカップル的」思考だ。でも別にどう思われたって構わない。彼女自身に眉をひそめられたとしても、こればかりは譲れない。
彼女とは付き合い始めて丁度一年くらいだ。(あの奇跡の上に成り立つ今の幸福に、今でも赤城は神様みたいな存在に感謝している)(けれど同時にやっぱり彼女を見つけて辿り着けたのは自分の気持ち一つだと思っている部分もあったりする)

笑ったり、怒ったり、時々は少し泣いたり。まだ1年。でももう1年。ただ焦がれるしか出来なかった高校3年間に比べれば、赤城は随分と彼女について詳しくなった。でもまだ知らない事はたくさんあるのだろう。

「…なぁに?何か考え事?」
「うん。君の事を考えてた」
「なっ、何言い出すの、突然!」
「突然も何も、君の問いに僕は正直に答えただけなんだけど」

時々、彼女はこうして急に赤くなって恥ずかしがる。赤城には何故なのかわからない。女心とは複雑だ。

「あ、そうだ。この間言ってたケーキ、買って来たよ。食べる?丁度小腹空いた頃だし、冷蔵庫に入ってる」
「この間?」
「君、カワイイって言ってたろ?形容詞の使い方について言及するのは置いといて、とりあえずいくつか買ってみた」

少し前に、近所のケーキ屋を覗いて歓声あげてたのは彼女だ。春だからなのかイチゴがたくさん使われていて確かにかわいらしいデザインのケーキがたくさん並んでいた。
彼女も世間一般の女の子達のように甘いものが好きだ。どこそこのパフェのメニューが新しくなったとか、カフェに出てくるケーキが美味しいんだとか、形がかわいいだとかしょっちゅう聞かされる。正直なところ赤城にしてみればケーキにそうまで情熱傾ける女子の気持ちはさっぱりわからないのだが。
大体、ケーキに「カワイイ」だなんて、日本語の使い方がおかしい。腹に入ればどれも同じだろうにと以前うっかり言ってしまった事があり、危うく恋人関係の崩壊の道を辿りそうになった事は記憶に新しい。
あれ以来、ケーキ関連に関しては赤城は慎重だ。だから、今日だってきっと彼女が喜ぶだろうと思って何種類か内緒で買っておいたのだ。

けれども予想に反して、彼女の表情は何となく浮かないというか、少し困ったような微妙な顔つきだった。
てっきり手放しで喜んでくれるかと思ったのに予想外の反応だ。冷蔵庫から取り出して彼女の前で開けて見せてもその表情が晴れる事はなかった。

「あれ?いらなかった?別に後でもいいけど、君が食べてくれなきゃ僕一人じゃとても無理だし」
「ううん、大好きだし、気持ちはとっても嬉しいんだけど…その、何て言うか…」
「何か問題でも?」
「ええっと…」

何だか歯切れが悪い。視線を外してもじもじと言いよどむ姿もかわいいなと思い、もう少し苛めたくなって赤城はわざと肩をすくめてとぼけたフリをする。

「……あ、もしかして虫歯とか。甘いもの食べたら歯磨きしなきゃダメだよ?」
「違います!歯磨きはちゃんとしてるもん!」
「じゃあ何で?僕には言えないの?」

そんな風に畳みかけたところで、赤城には彼女が理由を白状するのはわかっている。更に言えば理由があろうがなかろうが、それはあまり重要ではない。

「い、言えないわけじゃないけど…笑われそうな気がする」

ああ、ほら。そんな顔するから。彼女が顔を赤くして困った顔をするのを見るのは結構好きだ。一等好きなのは笑顔に決まっているけれど。

「笑わないよ。君がマジメに考えている事に対して僕が笑ったりしたことある?」
「……あるような気がする」
「心外だなぁ、そんなつもりは全くないんだけど」
「ホントに笑わない?ついでに呆れたりしない?」
「しないよ。それで、何なの?」

ソファに座る彼女の傍に黙ってにじり寄る。距離が縮まった事に関して彼女は何も言わなかったし反応もなかった。気が付かないのか、それともそんな事は言うまでもなく許容範囲なのか。
後者、だったらいいのだけど。

「あのね…ダイエット、しようと思って」
「…ダイエット?」

ほっぺたを赤くして小さく零す彼女の言葉に、思わずその単語を復唱する。途端に「やっぱり呆れてるでしょ!」と彼女の非難じみた声が聞こえた。

「だって、どう見てもダイエットの必要性は感じられないけど」
「あるよ!だってね?去年買った夏物のスカート、試しに着てみたらちょっとキツクなってて…」
「じゃ、もう一つ大きいサイズのを買えば?」
「そういう問題じゃないの!もう何ソレ、信じられない!」

きっ、と睨み上げられて、もしやまた地雷を踏んでしまったのだろうかと赤城は心中ため息をついたが、そうは言ってもわからないものはわからない。
ペパーミントグリーンのカットソーに覆われている彼女のお腹の辺りを見てみる。そんな気にするほど太った風には見えない。
そもそも少し太ろうが痩せようが、彼女への気持ちは変わらないのだし。赤城にとっては取るに足らない問題なのだが。
けれども彼女はぷうっと頬を膨らませて恨めしそうな顔で赤城を見上げていた。

「…一雪くん、私が太っちゃっても気にしないの?スカートが入らなくなったからって新しいサイズで買い直しちゃうような女の子でいいの?」
「あのね、一つくらいサイズが大きいのくらい気にするわけないよ。そりゃさ、合うサイズが無くて服を特注しなきゃいけないほど太ってるって言うんなら僕もダイエットをお勧めするけども」
「わーもー!バカバカ!一雪くんのバカ!ほんっと信じられない!!女の子にそんな事言うなんて!」
「わ!ちょ、痛い!どうしてそんなすぐ怒るかな、君は」

ポカポカと胸を殴ってくる彼女の腕を押さえこんで、赤城は彼女の脇腹辺りに手を伸ばす。カットソーの上から人差指と親指でむに、と摘まんでみた。
柔らかな感触に、体の中でぐらりと何かが揺れる。墓穴を掘った気がする。…まだ日も高いのに。

「きゃあああ!な、何するのっ!?一雪くんのエッチ!ヘンタイ!」
「仮にも彼氏に向かってエッチってね。男は皆そうなの。そんなに言うからどれだけあるかと思ったら」
「………で、どうだった?」
「…うん、まぁちょっとふくよかになった気はする」
「…うぁぁあん、やっぱりーーー!」
「でもまぁ僕としてはこれくらいあっても全然…むしろ良いんだけど」
「……やせる。絶対、やせるっ!」
「勿体ないなぁ」

ふにふにとお腹の辺りを撫でると「ひゃっ」と高い声が聞こえた。ふと彼女と目が合う。赤くなった頬に、潤んだ目。
まずい。やっぱり墓穴だった。

「…ねぇ、そんなに痩せたいなら手伝ってあげようか?」
「へ?手伝うってどうやって?」
「うん、痩せるには運動するのが一番いいだろ?カロリーをきちんと消費すればケーキも食べられるし」
「それはそうだけど…、走りにでも行くの?」
「いやいや。そんなの別に一人でも行けるだろ。僕が言ってるのは二人でないと出来ない運動だから」

言いながら、つい、と彼女の細い肩を押す。そんなに強く力を込めたわけじゃないのに簡単に倒れてしまう彼女は、やっぱりダイエットなんて必要ないと思う。
けれども、彼女がどうしてもと言うのなら、それを黙って見過ごす事はないだろう。
そう、決して理性が負けてしまった結果、ではなく。

「ちょ…!て、手伝ってくれなくてもいいっ!ほらっ、一雪くん、折角だからケーキ食べよう?私、ダイエットは明日からするから!」
「ダメだよ。ダイエットに大切なのは本人の痩せたいという強い意志なんだから。思い立ったらその時から実行しなきゃ。というわけで、このまま続行します。君の為に」
「私の為っていうか、一雪くんの為でしょ!ばかぁぁっ!」





何でもない日、彼女と過ごすのが赤城は好きだ。どんなものも幸せにつながる。
テーブルの上に出しっぱなしのケーキが、どろどろに溶けてしまうのもまたその一つ。














Thanks!!1st anniversary!!





















F川さまからリクエスト。赤城話。「赤城のイヤミな性格を存分に出しまくったイラッとくるヤツ」でした。
イラっとっていうか…ただの破廉恥になってしまった…!タイトルからして破廉恥ですみません。
でも「何でもいいです」と最後に言ってくださったので…いい、事にする…。
それにしても私が書く赤城は何故こうも…

こんなお話ですが、リクエストしてくださった藤川さまは、お持ち帰り等お好きなようになさってください。

リクエスト、ありがとうございました!!